クラウド会計

IT導入補助金2019の採択のポイント(労働生産性の向上率の設定)

IT導入補助金の2019年版の公募がされています。
一次公募は2019年6月28日(金)まで(B類型)。二次公募は、2019年7月17日(水)~2019年8月23日(金)を予定しているようです。
前回までと異なり2種類の内容に区分され補助金の金額が増えている点が特徴ですが、前回までの違いと採択のポイントをご紹介したいと思います。

IT補助金については、以下にある昨年度の記事もご参考下さい。
IT導入補助金採択のポイントまとめ
IT導入補助金を活用してクラウド会計を導入する方法

1、IT導入補助金とは

IT導入補助金は、事務局のホームページは以下のように記載されています。簡単に説明すると、中小企業、小規模事業者がITツールを導入する時に申請をすることで、国から一部補助金がもらえるという内容です。

「IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等のみなさまが自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、みなさまの業務効率化・売上アップをサポートするものです。
自社の置かれた環境から強み・弱みを認識、分析し、把握した経営課題や需要に合ったITツールを導入することで、業務効率化・売上アップといった経営力の向上・強化を図っていただくことを目的としています。」

2、IT導入補助金の狙い

補助金の申請をする上では、補助金の目的を知っていた方が良いでしょう。
国は政策目標を達成するために補助金を支給するので、目標に沿った形で申請をすれば採択されやすいと思います。

IT導入補助金の目的は、「労働生産性の向上」のためにITの利用を普及させることです。
最近は、中小企業や小規模事業者の方から人手不足で困る、採用が難しいという話しを聞くことが多いですが、人の利用に制限がある限りITを有効に活用せざるを得ないでしょう。
また、私のような個人事業主の場合でも人を使わずにITを利用して効率的に業務を行うことができれば費用を抑えながら売上を伸ばすことができるので、ITの有効活用は少子高齢化が進む環境においては必須の取り組みだと思います。
「労働生産性の向上」というと、小難しいですが、上述したようにITを利用して効率的に儲ける取り組むをする時に補助金を支給してくれるということです。労働生産性については、IT導入補助金を申請する上で把握しておいた方が良いので、労働生産性を算出する上での数式を紹介します。

「労働生産性=付加価値/労働投入量」

分子の付加価値は、粗利=売上高-費用と考えて頂ければOKです。
労働生産性を高くするのがIT導入補助金の目的になりますので、分子を大きくするか、分母を小さくする必要があることが分かります。
つまり、ITを導入することで、分子の付加価値(粗利)を大きくする、又は分母の労働投入量を小さくすれば良い訳です。
IT導入補助金の申請時には、労働生産性を高めるための独自の数値目標を設定した方が採択上も有利になると思います。また、そもそも補助金の申請やIT導入の取り組みには時間もお金もかかりますので、自社にとってITを導入する上でマッチした目標を設定したいですよね。
なお、独自の数値目標の設定については、こちらで紹介していますので、是非ご参考にして頂ければと思います。

3、IT導入補助金2019 従来からの変更点

3.1 補助金金額の増額

IT導入補助金2019は、従来と異なりA類型とB類型に分類されており、それぞれの補助金の下限額と上限額は以下のように設定されています。
・A類型は、40万~150万円未満
・B類型は、150万~450万円
A類型、B類型ともに補助率はいずれも1/2以下とされています。補助率が1/2以下というのは、申請者の自己負担と同額の補助がされるということなので、A類型の場合には最大で300万円(自己負担150万円、補助金150万円)、B類型の場合には最大で900万円(自己負担450万円、補助金450万円)のITツールの導入を想定しているということが分かります。900万円のITツールとなると中小企業の場合には相当程度のシステム投資が想定されており、従来よりも規模が大きくなっていることが分かると思います。
なお、事務局の説明資料でも、以下のように記載されています。
「これまでのIT導入補助金でも、『生産性の向上により、足腰の強い経済を構築』することを目的としてきました。2019年度の事業ではこれをさらに推し進めるため補助金額を増額します。そして、多機能・多様なITツールを導入することで、『点』での業務改善・支援から『面』での業務改善・支援を実現させていきます。

3.2 A類型とB類型の違い

IT導入補助金2019ではA類型とB類型に区分されています。

ITツールにはソフトウェアとオプション、ソフトウェア導入に伴う役務(保守・設定)があり、IT導入補助金2019を申請する上では必ずソフトウェアを一つ選択する必要があります。
その上で、A類型の場合には、上記の表の中の赤枠内から2プロセス、うち少なくとも青枠内から1プロセスを選択する必要があり、
B類型の場合には、赤枠内から5プロセス、うち少なくとも青枠内から3プロセスを選択する必要があるようです。
B類型は5プロセスも必要になるので、相当程度の規模のITツールになることが分かりますね。

3.3 ホームページ制作費

今年度の制度では、『ホームページの制作費』は原則として補助金の対象になりません。
ただし、前出の『業務プロセス』を補助する『入力画面』として、Webページが必要である場合に限り、補助金の対象となります。

3.4 事業実施効果報告

今回からA類型とB類型の区分ができたため、IT導入補助金が採択された後に必要な事後的な実施効果の報告の期間が従来と異なります。
すなわち、A類型での申請の場合、3年間B類型での申請の場合は5年間にわたり、ITツール導入後の労働生産性の推移を事務局へ報告を行う必要があります。
※なお、交付申請時に計画した数値に達しない場合でもペナルティはありません。

3.5 連携施策

後述しますが、今回から採択する上での加点項目に追加された内容があります。
今回からは、クラウドツールの利用をした場合には加点されることになりました。すなわち、IT導入補助金の申請をする時に、ITツールを登録をするのですが、この際に、「クラウド製品」として登録された『ソフトウェア』を導入した場合には申請時に加点になります。

4、採択のポイント

4.1 加点項目

最後にIT導入補助金2019の採択のポイントですが、加点項目について確認したいと思います。
公募要領に掲げられている加点項目は以下の5つです。
①生産性向上特別措置法(平成30年法律第25号)に基づく特例措置に関して、固定資産税の特例率をゼロの措置を講じた自治体に所属していること。(先端設備等導入計画の認定は不要)
②地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画の承認を取得していること。
③経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」であること。
④「おもてなし規格認証 2019」を取得していること。ただし、2018 年に金、紺、紫認証を取得し、当該認証が有効である場合は、「おもてなし規格認証2019」の取得は不要。(「おもてなし規格認証 2019」については、認証ランクは問わない)
⑤導入するITツールとしてクラウド製品を選定していること。

①の生産性向上特別措置法については、先端設備等導入計画の認定までは要求されていません。申請書の所属する自治体により加点がされるものなので注意はする必要はないと思います。なお、先端設備等導入計画についてはこちらをご参照下さい。
また、②と③の条件を満たす企業は全体の中で少ないと思いますので、取得している方は忘れずに申請をした方が良いという内容です。
加点項目の中で重要な内容は、④のおもてなし規格認証と⑤クラウド製品の選定です。
おもてなし認証規格については、認証ランクを問いませんので、IT導入補助金の申請前に紫認証を取得すべきだと思います。
おもてなし認証規格の取得方法については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
最後のITツールとしてクラウド製品を選定すること。この内容は前回にはなかった内容です。クラウドサービスの普及を進めるための加点のなっていますので、IT導入補助金を申請する時には事前に業者と打ち合わせをして加点になるように確認した方が良いでしょう。

4.2 事業面の審査内容

加点項目以外の審査内容は、以下の通りとなっています。
①事業面の具体的な審査
・経営診断ツールの各項目において、自社の経営課題を理解し、経営改善に向けた具体的な問題意識を持っているか。
・自社の状況や課題分析及び将来計画に対し、改善すべき業務プロセスが、導入する「ITツール」の機能により期待される導入効果とマッチしているか。
・内部プロセスの高度化、効率化及びデータ連携による社内横断的なデータ共有・分析等を取り入れ、継続的な生産性向上と事業の成長に取り組んでいるか。
この審査内容に対するポイントとしては、申請時に作成する経営診断ツールの回答の仕方と、会社の課題に応じたITツールを選定しているかということになると思います。申請書の記載の内容に矛盾があったり、補助金をもらうのを目的としたような申請内容にならないように注意が必要でしょう。

②計画目標値の審査
計画目標値の審査項目として、公募要領には労働生産性の向上率と明記されています。
目標として設定する労働生産性の向上率をどれ位高く設定するかという点がポイントになる訳ですが、留意すべき点としては以下の2点だと考えます。
①IT導入補助金採択後の事業実施効果報告をみ見据えた設定にしているか。
すなわち、IT導入補助金の採択後には事業実施効果報告が必要になります(A類型は3年、B類型は5年)が、極端に目標数値と実績数値の乖離が発生しない方が良いと思います。
例えば、IT導入補助金申請前の労働生産性が50万円(粗利100万円/従業員数2名)であるのに、申請1年後に200万円(粗利400万円/従業員数2名)になるような目標値は実現可能性に疑問が残ますし、実施報告後に大幅な目標未達になる可能性が高いと思います。(一般的な話しですが、利益が前期比で4倍になる企業は多くはありません。)
つまり、労働生産性の向上率は単純に高く設定すれば良い訳ではなく、過去の企業の実績に基づいた達成可能性のある現実的な目標設定が良いと思います。
ただし、目標とすべき数値ですので、マイナスになるような設定や低すぎる設定も良くないと思います。
目標値設定の例としては、売上高の推移が過去3年間で1000万円、980万円、1100万円のような企業であれば年間で3%~5%程度の上昇率であれば十分な目標値の設定になるはずです。
達成可能な目標値を設定すれば、事業実施効果報告時にも目標値と実績値に大きな乖離が生じないので、その後のIT投資の取組み方も改善されやすく望ましいはずです。
②業種の標準値と比較して異常な設定になっていないか。
労働生産性の向上率を設定する上で、もう一つ注意しておいた方が良いと思う内容は、申請企業が属する業種の標準的な目標値と大きく乖離した目標数値になっていないかという点です。
私見になりますが、導入補助金の審査する側の立場になれば数多くの申請書類を審査する必要があり、一定の基準となる目安が設定されるはずです。また、仮に審査上の基準値がない場合でも、数多くの書類を目を通していくので、極端な目標数値が目に入った時には「何だこの異常な数値は?」という印象を審査員に与えることになり、通常よりも時間をかけて申請内容を精査されるリスクがあると思います。
そのため、申請企業の属する業種の標準的な目標値とは大きく乖離しないような設定が良いと思います。

例えば、IT導入補助金と同様に労働生産性を目標値として設定する経営力向上計画には、業種毎に計画の策定指針が中小企業庁のホームページに掲載されていますので、この経営力向上計画の策定指針を参考にするのは有意義だと思います。
経営力向上計画の策定指針の確認はこちらをクリニックして下さい。
例えば、リンク先の外食・中食業界の指針を見てもらうと、「計画期間が五年間である場合には、五年後までに時間当たりの労働生産性を計画策定の前年と比較して二%以上向上させることを目標として設定しなければならない。計画期間が四年間の場合は一・五%以上向上させることを、三年間の場合は一%以上向上させることを目標として設定しなければならない。」とされているのが分かると思います。この基準は絶対的なものではなく企業の状況に応じては必ずしも参考にしにくいケースもあるかと思いますが、中小企業庁が作成している指針なので、参考にしても大きく✖がつくことはないはずです。
その他に参考にするものとしては、業種別審査辞典や会計事務所や会計ソフト系の会社が集計している財務指標の業界標準値などが挙げられるでしょう。

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