平成30年9月3日から事業承継補助金の公募(後継者承継支援型~経営者交代タイプ~は3次公募、事業再編・事業統合支援型~M&Aタイプ~は2次公募)がされています。今回は、事業承継補助金の内容をまとめてみました。
目次
1.事業承継補助金とは
事業承継補助金は、事業承継やM&Aなどをきっかけとした、中小企業の新しいチャレンジを応援する制度です。
経営者の交代後に経営革新等を行う場合や事業の再編・統合等の実施後に経営革新等を行う場合に、必要な経費が補助されます。事業承継補助金を使うためには、平成27年4月1日~平成30年12月31日の間に事業承継を行う必要があります。
2.なぜ事業承継補助金ができたのか
2.1 中小企業経営者の高齢化
最近20年間で経営者の高齢化が進行しています。中小企業経営者の年齢のピークは、20年間で47歳から66歳に推移しているそうです。
ここで重要なのは、経営者が高齢化していること自体が問題なのではないと思います。66歳の経営者であっても活躍されている方は多いと思いますし、経営状況が良い会社もあるでしょう。シニア起業が増えることだって素晴らしいことだと思います。
ただ、統計的には社長の年齢が65歳を超えると、会社の売上高が減少する傾向にあるようです。
事業の内容によっては社長が営業しなくて良かったり、社長の技術や知識がなくても売上が維持するような事業もあるでしょう。しかし、大企業とは異なり従業員の少ない中小企業は社長の力による影響が大きいと思います。社長が以前程の動きができなくなるのは仕方ないことで、売上高が減少する可能性は現実的なことだと思います。
事業承継をしないまま、高齢の社長が経営を続け、「売上が減少して気がついたら手遅れになっていた。」という事がないようにするために、事業承継の対策を早めにするという背景が事業承継補助金を含め、事業承継の支援が最近大きく取り上げられている理由の一つです。
2.2 後継者の不在
経営者が高齢化するだけでなく、後継者が不在の会社が増えていることも事業承継補助金を含めた事業承継の支援が必要になっている理由です。
帝国データバンクの「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」によると国内企業の3分の2にあたる66.5%が後継者不在の状況のようです。
朝日新聞デジタルでは、「廃業予備軍「127万社」の衝撃 後継ぎ不足、企業3割」というタイトルで、「事業が続けられず廃業する企業の半分は黒字とされ、25年ごろまでに650万人分の雇用と22兆円分の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある。」との記事を掲載しています。
会社の経営状況が悪い場合や、将来性に問題がある事業であれば事業の後継者が不在になることは仕方ないでしょう。ここでの問題は、廃業企業の半分は黒字ということだと思います。黒字企業なのに後継者不在により廃業になってしまうのは非常にもったいないですね。
特に地方だとその地域ならでは会社だったり、特別な技術を持った貴重な会社があったりしますが、そのような地域に貢献している企業がなくなってしまうのはとても残念に思います。
なお、中小企業基盤整備機構、事業承継・引継ぎ支援センターのホームページによると事業承継がされる時には、従来は9割以上が親族であったのが、現在では4割以下になっており、親族外、第三者への事業引継ぎが増加していることが分かります。
3.事業承継が進まない理由
事業承継が進まない理由としては、様々な要因が挙げられると思いますが、ここでは簡単に3つの視点で考えてみます。
3.1 人の問題
前述したように後継者が不在の企業は国内企業の3分の2という状況です。
その理由としては、以下のような人の問題が挙げられると思います。
・単純に親族がいない
・親族はいるが後継する意思がない
・親族がいて後継する意思はあっても能力がない
・親族以外に社内に後継者候補者がいない
・親族以外に社内に後継者候補者がいるが意思がない
・姻族以外に社内に後継者候補者がいて意思もあるが能力が不足している
3.2 物の問題
設備面の問題も原因として挙げられると思います。ホテルや旅館、飲食店の建物が老朽化しているケース、ものを作る製造業の工場の中の設備が老朽化しているケース。このような場合には、設備を改修や更新するタイミングで経営者が承継をしないという判断をすることがあると思います。
3.3 お金の問題
設備以外にもお金の問題により事業承継が円滑に進まないケースがあるでしょう。
廃業の企業の半分は黒字企業とのことですが、現状は黒字であっても後継者に十分な給与を支払うことができない中小企業は少なくはないはずです。また、借入金の返済等を考えると黒字企業であったも資金繰りは楽ではない中小企業も少なくはないはずです。事業承継のタイミングで市場の環境に合わせた事業をしたいと思っても余裕の資金がない企業は多いでしょう。
4.事業承継補助金の種類
上述したように事業承継を促進し、事業承継を円滑に進めていくことは日本の課題です。この課題を解決していくための支援が必要ですが、事業承継補助金は資金面で事業承継を応援してくれる支援策といえるでしょう。
この事業承継補助金には、2つの種類がありますので、それぞれをご紹介します。
4.1 後継者承継支援型~経営者交代タイプ~
経営者交代による承継の後に新しい取組を行った方を対象とした補助金です。
補助金の対象となる事業承継の形態は、以下の通りです。
① 法人における退任、就任を伴う代表者交代による事業承継
② 個人事業における廃業、開業を伴う事業譲渡による承継
③ 法人から事業譲渡を受け個人事業を開業する承継
単純に事業を承継するだけでなく、以下のような経営革新等を伴うものである必要があります。要するに、新しい取り組みを考えて良い経営を心がけて下さい。ということです。
・新商品の開発又は生産
・新役務の開発又は提供
・商品の新たな生産又は販売の方式の導入
・役務の新たな提供の方式の導入
・その他の新たな事業活動で販路拡大や新市場開拓、生産性向上等、事業の活性化につながる取組。
事業の承継者は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
・経営経験がある
・同業種に関する知識などがある
・創業・承継に関する研修等を受講したもの
また、補助対象となる経費は以下の通りです。
人件費/設備費/原材料費/外注費/委託費/広報費/知的財産権等関連経費/謝金/旅費/店舗等借入費/会場借料費/マーケティング調査費/申請書類作成費用
<事業所の廃止、既存事業の廃業・集約を伴う場合>
廃業登記費/在庫処分費/解体費・処分費/原状回復費
小規模企業者、従業員数が小規模企業者と同じ規模の個人事業主の場合には、補助金の補助率は3分の2で、上限額は200万円です。既存事業の廃止等を伴う場合には補助額が300万円上乗せされます。
それ以外の場合にの補助金の補助率は2分の1で、上限額は150万円です。既存事業の廃止等を伴う場合には補助額が225万円上乗せされます。
補助金の内容の詳細は、こちらをご確認下さい。
4.2 事業再編・事業統合支援型~M&Aタイプ~
事業再編・統合の後に新しい取組を行った方を対象とした補助金です。
対象となる取り組みは、合併、会社分割、事業譲渡、株式交換・株式移転、株式譲渡などの事業再編・統合です。
単純な事業再編、事業統合をするだけでは補助金の対象とならず、事業再編・事業統合を含む事業承継を契機に、以下に例示する経営革新等を伴うものである必要があります。
・新事業分野への挑戦
・既存事業分野における新市場開拓
・既存事業分野における生産性向上
また、補助対象となる経費は以下の通りです。
人件費/設備費/原材料費/外注費/委託費/広報費/知的財産権等関連経費/謝金/旅費/店舗等借入費/会場借料費/マーケティング調査費/申請書類作成費用
<事業所の廃止、既存事業の廃業・集約を伴う場合>
廃業登記費/在庫処分費/解体費・処分費/原状回復費/移転・移設費
応募申請の採択が上位の場合、補助金の補助率は3分の2で、上限額は600万円です。既存事業の廃止等を伴う場合には補助額が600万円上乗せされます。
応募申請の採択が上位以外の場合、補助金の補助率は2分の1で、上限額は450万円です。既存事業の廃止等を伴う場合には補助額が450万円上乗せされます。
補助金の内容詳細は、こちらをご確認下さい。
5.過去の採択率
最後に平成29年度予算の採択率を参考に記載します。
経営者交代タイプの1次公募の結果が公表されていますが、申請が481件で採択が374件ですので、約8割の方が採択されています。募集数が多くないは経営者交代等の準備期間などの問題があるからだと思いますが、採択率は高いので条件を満たす可能性が高い方はチャンスだと思います。
この補助金には認定支援機関による確認書の提出が必要になります。私は認定支援機関として認定を受けております。また、中小企業診断士の資格を保有しており経営革新の内容についてアドバイスが可能です。応募を検討されている方はまずはお気軽のご相談頂ければと思います。